2025年8月1日、欧州司法裁判所(ECJ)は、特定の粉末状二酸化チタン(TiO₂)の発がん性分類を取り消すという欧州一般裁判所の判断を支持し、最終判決を下しました。これは、化学品規制における証拠評価のあり方に影響を与える重要な決定です。
背景
- 2016年:フランスANSESがTiO₂を吸入性発がん物質(カテゴリー2)に分類するよう提案。
- 2019年:欧州委員会が、粒径10μm以下の粒子を1%以上含む粉末状TiO₂に「H351(吸入)」表示を義務化。
→業界の反発:製造・輸入企業は「科学的根拠が不十分」として欧州一般裁判所に提訴。
- 2022年11月:欧州一般裁判所が分類を無効化。「科学的評価に明白な誤り」と判断。
→その後、欧州委員会とフランス政府は一般裁判所の判決に対して控訴しました。
- 2025年8月1日:欧州司法裁判所が上訴を棄却し、一般裁判所の判断を確定。
判決のポイント
- 科学的証拠の包括的評価義務:規制当局は、分類時にすべての関連データを網羅的かつ信頼性高く評価すべきと明確化。
- 「内在的特性」原則の確認:危険性は物質そのものの性質に基づくべきであり、特定の形態や条件(例:粉末)だけで発現するリスクは「内在的特性」とみなされません。
→ただし、食品添加物(E171)としての二酸化チタンのEU域内禁止は、別の法体系(食品添加物規則)に基づくものであり、今回の判決の影響は受けません。
まとめ
今回の分類取消により、化学、塗料、食品、玩具、医薬品、化粧品などの業界では、特定粒径の粉末状TiO₂に対する発がん性ラベル義務が撤廃され、コンプライアンスや運用コストが軽減されます。
しかし、この決定はTiO₂が「完全に安全」と認められたわけではなく、将来、より強固な科学的証拠が示されれば再分類の可能性もあります。
そのため、企業は以下の対応が求められます:
- 継続的なモニタリング:使用原料の粒径分布や含有率の測定を定期的に実施。
- 透明性あるデータ管理:成分分析結果や評価レポートを適切に保管し、規制当局からの照会や監査に備える。
- 予防的リスク評価:現時点で規制対象外でも、将来の法改正や分類変更に備え、先行して分析・評価を行う。
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