中国に拠点を持つ企業のあいだで、事業の見直しや再編が現実的なテーマとして語られる場面が増えてきました。全面的な撤退に限らず、生産の一部を別の地域へ移す、複数拠点を統合する、あるいは土地や建屋の扱いを整理するといった判断は、いまや特別なものではありません。
こうした動きが広がる中で、2014年に15年ぶりに大幅改正された『環境保護法』、そしてその流れの中で整備された土壌関連法規は、多くの日系企業にとって無視できないテーマとなりました。当時、「これはどうなるのか」と言われていた論点が、いま実務の中で現実の問題として表面化しています。
中国の環境規制は、1980年代から制度自体は存在していたものの、長く実効性は限定的でした。経済成長が優先されていたためです。転機となったのは2013年の深刻な大気汚染でした。PM2.5が都市生活を直撃し、社会問題として一気に顕在化したことで、政府は本格的な対策に踏み込みます。
2013年の「大気十条」、2014年の環境保護法改正、2015年の「水十条」、2016年の「土十条」と、規制は空・水・土へと一気に広がっていきました。さらに2018年前後からは中央主導の環境監察が強化され、操業停止や厳格な執行が現実のものとなります。そして2019年、『中華人民共和国土壌汚染防治法』の施行により、土地に関する調査義務や修復責任が制度として明確になりました。
この一連の流れにより、それまで見えにくかったリスクが顕在化しました。操業中は問題なく事業を継続できていた企業でも、移転や撤退の局面で土壌汚染が発覚し、土地売却が進まない、想定外の修復費用が発生する、といったケースが現実に起きています。中国ビジネスにおいては、「参入時よりも退出時にリスクが集中する」という構造がはっきりしてきました。
当時、この動きを現場で見ていた人間にとっては、「これは後で効いてくるな」という感覚はありました。ただ、その時点では多くの企業にとって優先順位が高いテーマではありませんでした。
というのも、すでに操業している企業にとって、土壌対応は決して軽いものではなかったからです。土地の履歴をさかのぼり、必要に応じて調査を行うとなれば、ボーリング調査や分析が必要になります。時間も費用もかかる。そして何より、「調べた瞬間にリスクが確定する」という心理的なハードルがありました。
知らなければまだ選択肢は残るが、知ってしまえば対応せざるを得ない。この感覚は、現場では非常にリアルでした。
その結果、対応を進められたのは一部の大手企業に限られ、多くの企業では「いずれ考える問題」として扱われることになります。当時の現場では「ここまでやるのは現実的ではない」という空気もあり、任期の中で撤退が見えていない場合は、判断が先送りされるのも自然な流れでした。
しかし、その「いずれ」が、いま現実になっています。
世界情勢の変化により、中国拠点の位置づけは見直され、移転や再編、場合によっては撤退が現実的な選択肢となりました。そして、これまで先送りされてきた土壌の問題が、一気に顕在化しています。
現在では、日本本社の担当者や役員、現地の経営層がこの問題に直面しています。ただ、以前のように環境の専門人材が現地にいるとは限らず、コロナ以降の体制変化もあり、現場での対応力にはばらつきがあります。
結果として、「何から手をつければいいのか分からない」という状況が現場で起き、本社側も状況を十分に把握しきれていないケースが出てきています。加えて、中国事業自体の優先順位が相対的に下がっていることもあり、この問題が後回しになりやすい構造もあります。
ただ、この問題は後から確実に影響が出ます。時間、コスト、そして意思決定のすべてに関わってきます。だからこそ、早い段階で整理しておく必要があります。
『中華人民共和国土壌汚染防治法』の根底にあるのは、土地を「使い終わった場所」ではなく、その後も利用される資産として捉える考え方です。企業にとっては役割を終えた土地であっても、次に使う主体にとってはスタート地点であり、その状態は当然問われます。
そのため制度としては、土壌の状態を把握し、リスクを評価し、必要に応じて管理や修復を行うという流れが組み込まれています。ここで重要なのは、「元に戻す」というより、「これから使える状態にする」という考え方です。
この違いは、移転や撤退の局面で大きく影響します。操業中は問題にならなかったことが、土地を返す、売るといった段階で一気に論点になります。さらに地下水まで含めて検討が必要になるケースもあり、想定以上に対応範囲が広がることもあります。
こうした問題は、後半に出てくるほど対応が難しくなります。一方で、初期段階で全体像を押さえておけば、対応はかなり整理できます。いきなり調査を行う必要はなくても、「何が起こり得るか」を把握しておくことが重要です。
中国拠点の再編において、土地の問題は一つの部署で完結するものではありません。事業、法務、総務、経営企画といった複数の視点が関わります。
DGERでは、こうした中国拠点の移転や再編に伴う環境対応について、日本本社の視点から状況を整理し、どこから手をつけるべきかを明確にする支援を行っています。現地での調査や評価についても、日本側で意思決定しやすい形に整理し、関係者間の認識を揃えます。
早い段階で少し整理しておくだけでも、後の負担は大きく変わります。 状況が見えにくい段階からでも整理は可能であり、実際には「何も分からない」状態からご相談いただくケースが大半です。どうぞお気軽にご相談ください。











